■ 死んでいた。
体中がひしゃげ、白目を剥いて、彼は、彼だったものは、ただただそこに転がっていた。
今日も退屈な一日だった。
いつものように授業を受けた。
堀さんの数学は相変わらず難しかった。
安藤の体育は基礎ばかりでつまらなかった。
部活動は無難にこなした。
寄り道もせずに帰ってきた。
人生に刺激が欲しいと願わなかったわけではない。むしろ毎日それを待ち望んでいた。強く。自分以外の何かにそれを願っては、なんとなく生き続けていた。
それは、その刺激とやらは突然訪れたわけなのだけれど、しかしどうだ、誰がこんな惨状に立ち会うことを願ったというのだ。神がいるならお前はなんなんだと問い詰めたい。
なんなんだ本当に。
あぁ、録り溜めたアニメを消化しなきゃだとか、テイルズの新作楽しみだなぁだとか、最近の公式アカウントは病気の人が多いなぁだとか、僕の頭は現実逃避を開始した。体は固まって動かなかったので、頭だけでもこの現実から逃げ出したというわけだ。思考の逃避行。
そんな状態の僕は、正常に物事を判断するという高度なテクニックを駆使することなど、まずもってできなかった。
一時的にバグってしまった頭で唯一絞り出した中で最もまともだったであろう考えが「脈を確認しなければ」などという、そんな滑稽な発想なのだから、どれだけキャパシティを超えていたかがおわかりいただけるだろう。
しかし、ここで僕を責めないでやってほしい。学校から帰るとそこにはめちゃくちゃな死体が、ルームメイトである先輩の死体が眼前に鎮座していたのだ。誰だって取り乱すシチュエーションだと思うし、むしろ思考が停止しなかったことを褒めて貰いたいくらいだ。出てきた考えが正解かどうかは別として、だが。
思い付いてからははやかった。すぐに生きているはずもないその死体に近付いた。
すでに止まった脈を確かめるために。
終わってしまった命を、終わり終えた命を、僕のこの手で確認するために。
その使命感からか、固まった体は重いながらも動いた。無理矢理動かしたといったところだが。
そして僕は死体のそばにたどり着く。
生前は彼だったそれに、ルームメイトの先輩だったそれに、触れる。
刹那、僕は光に包まれた。
[ 2014年01月06日 - 18:01 ]