■ 森岡隆三は声をあげた。
「すごいな、これっ。サッカーになんのかな」
「ホントだな。これだけ水浸しだと、フランスもボールを回せないだろ」
松田直樹が、乾いた声で応じた。
森岡は72分で交代した。ベンチに退いても、心は乱れたままだった。フラット3の中央ではなく右サイドで起用されたことも、言い訳にできるものではなかった。
「ボールを奪った記憶が、ただの一度もない。持っているものを何ひとつ出せなかった。自分のプレーができていないんですから、ピッチにいなかったのも同じです」
衝撃が強いほど、影響は遅れてやってくる。驚きは恐怖に代わり、じわじわと背筋を這い上がっていく。
前半の失点はここまでである。しかし、ロッカールームに戻ってきた森岡は、心の平衡感覚を失っていた。
身体ごとぶつかるように激しく寄せても、あっさりとかわされてしまう。距離をあければ、好き放題に攻め込まれる。クレバーな対応を持ち味とする男が、難解な二者択一にもがき苦しんでいた。
「ディフェンスは基本的に相手のドリブルや仕掛けに対してのプランと意図があれば、たとえやられても次はこうしようと思える。でも、ただ翻弄されるばかりで、プランがまったく持てていない状態なんですよ」
稲本潤一も、全身を落胆で包んでいた。フィジカルコンタクトに強いボランチは、足元に視線を落とすばかりだった。
「何もかもが違いました。それなりにやれる自信はあったけど、すべて砕かれた感じです。フィジカルの強さ、パスと判断の速さ。組織を抜きにしてすべてが違った」
深く沈みこむような夜の闇が訪れ、ゴール裏の電光掲示板には0対5のスコアが映し出された。
この最強チームを率いる中核がジダンである。
攻撃に入るとピッチのいたるところに現れ聖域を作っていく、まるでオーケストラの指揮者のように全ての領域を支配しそして優しく強く確実に決定的な場面を創造しそして実行する。
ジダンのプレーを見ていると時に戦術さえも凌駕している様な圧倒的な「 個 」の力を感じる。
http://number.bunshun.jp/articles/-/290155?page=3
[ 2015年12月19日 - 10:27 ]
(12/19 - 11:11) あの試合で唯一サッカーが出来ていた日本人は中田だけだった。中田の凄さを感じた試合だった