■ 国内カップに落ちぶれたチャンピオンズリーグ

ヨーロッパの頂点を争うチャンピオンズリーグは近年、国内カップに落ちぶれてしまったようだ。今季15-16シーズンのベスト8の勝ち残りクラブを見てみよう。

ヴォルフスブルク（ドイツ） vs レアル・マドリード（スペイン）
バイエルン（ドイツ） vs ベンフィカ（ポルトガル）
バルセロナ（スペイン） vs アトレティコ・マドリード（スペイン）
パリ・サンジェルマン（フランス） vs マンチェスター・シティ（イングランド）

8チーム中6チームは、スペインの3強に、ドイツから2クラブ、フランスのパリ・サンジェルマン、といった常連組で、ユヴェントスがいない点は少々寂しいが、全体としてはいつも通りの顔ぶれ。スペイン勢の同国対決も、すでに全く新鮮味や面白味はなく、むしろ予定調和の見慣れた光景といえよう。これではまるでスペインの国王杯である。

実際、昨季14-15シーズンも、バルセロナは優勝、レアルはベスト4だったが、ベスト8のアトレティコは、バルセロナ相手の同国対決で敗退している。
その前年の13-14シーズンはもっと酷く、決勝がレアルとアトレティコの同国対決だった。さらに、このシーズンのバルセロナはベスト8でアトレティコとの同国対決に敗れているのである。
そして、今シーズンもバルセロナ、レアル、アトレティコがベスト8に残り、優勝候補筆頭と目されているバルセロナの対戦相手は、同国対決となるアトレティコとなった。これではまるでスペインの国王杯である。

次に、ヨーロッパリーグのほうも少し見てみよう。今季15-16シーズンのベスト8の勝ち残りクラブは以下の通りである。

ブラガ（ポルトガル） vs シャフタール・ドネツク（ウクライナ）
ビジャレアル（スペイン） vs スパルタ・プラハ（チェコ）
アスレティック・ビルバオ（スペイン） vs セビージャ（スペイン）
ドルトムント（ドイツ） vs リヴァプール（イングランド）

こちらもスペインの3クラブを軸に、ポルトガルやドイツ、東欧などのクラブが加わる構成で、ドルトムントがCLではなくELに回っている以外は、総じていつも通りの顔ぶれ。前回王者セビージャ絡みのスペイン勢の同国対決も、すでに全く新鮮味や面白味はなく、むしろ予定調和の見慣れた光景といえよう。これではまるでスペインの国王杯である。

実際、昨季14-15シーズンも、セビージャが優勝。ちなみに、セビージャは、フィオレンティーナ（ベスト4）やゼニト（ベスト8）と対戦する前のベスト16の時点で、ビジャレアルとの同国対決を戦っている。スペイン勢がベスト16に2チームしか残っていなかったシーズンでさえ、同国対決が組まれた点は興味深い。
その前年の13-14シーズンはもっと酷く、優勝したセビージャは、ベスト4（バレンシア）とベスト16（ベティス）で同国対決を戦っていた。さらに、このシーズンのセビージャは、スペイン勢の次に強さを感じさせていたポルトガル勢のベンフィカ（ユヴェントスを倒して決勝進出）と決勝で、ポルト（ナポリを倒して準々決勝進）と準々決勝で対戦している。
そして、今シーズンもセビージャ、ビジャレアル、ビルバオがベスト8に残り、大会三連覇に挑むセビージャの対戦相手は、同国対決となるビルバオとなった。ちなみにビルバオは、ベスト16でも同国のバレンシアと対戦しているのである。これではまるでスペイン国王杯である。

最後に、CLもELもスペイン国王杯ならば、その決勝はUEFAスーパーカップということになる。過去10年間のUEFAスーパーカップを見てみよう。左側がUEFAスーパーカップの勝者である。

2006 セビージャ(スペイン) 3 - 0 バルセロナ(スペイン)
2007 ミラン(イタリア) 3 - 1 セビージャ(スペイン)
2008 ゼニト(ロシア) 2 - 1 マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)
2009 バルセロナ(スペイン) 1 - 0 シャフタール(ウクライナ)
2010 アトレティコ・マドリード(スペイン) 2 - 0 インテル(イタリア)
2011 バルセロナ(スペイン) 2 - 0 ポルト(ポルトガル)
2012 アトレティコ・マドリード(スペイン) 4 - 1 チェルシー(イングランド)
2013 バイエルン(ドイツ) 2 - 2 *PK チェルシー(イングランド)
2014 レアル・マドリード(スペイン) 2 - 0 セビージャ(スペイン)
2015 バルセロナ(スペイン) 5 - 4 セビージャ(スペイン)

過去10年のUEFAスーパーカップ王者は、10チーム中7チームがスペインのクラブだった。さらに、その内の3回は、スペイン勢同士の同国対決によるものだったのも興味深い。UEFAスーパーカップを戦った全20チーム中11チームはスペイン勢だった。これではまるでスペイン国王杯である。

ここまで極端にスペイン勢が強いと、利益優先で試合数を増やすだけのヨーロッパサッカー界やUEFAに警笛を鳴らす必要がある。スペイン国王杯をひたすら見るのはもう飽きた。バルセロナとレアルのような規格外のメガクラブを除けば、スペインの他のクラブは、現在世界中で最も疲弊しているといえるだろう。そんなヘトヘトのクラブ同士のゲームばかりを組んでも、選手たちが疲れ切って消耗してしまうだけだろう。怪我人が増えて、代表戦にも影響が出るに違いない。
資金力があり日程もゆるいイングランドのクラブが、ヨーロッパの舞台で軒並み全く通用しないことを考えれば、スペインのクラブが有する高度な戦術と技術が、いかに卓越しているかは自明である。しかし、現状のままでは、スペインサッカー、そしてヨーロッパサッカーが悲鳴を上げているのではなかろうか。ヨーロッパサッカーの未来のために、私たちはそろそろ声を上げなければならないだろう。