■ チェレヴィチキ主役のラブロマンス。
※登場人物
千木・・・本作の主人公。ロシア雑貨のバイヤーをやる傍ら、ロシア語の翻訳も行っている
花防美咲・・・本作のヒロイン。ほにぃ王国というカフェで働いている
二島・・・図書館司書。千木の友人である
腐蘭姐さん
翌日、私は二島を呼び出した。
「千木の仕事は早くて助かるよ」
「ああ。昨日は思いの外、捗ったんだ」
用件は例の翻訳が片付いたので、それを渡す為だ。
「ロシア語堪能で、ロシア文学にも精通している友人なんて、君を置いて他には居ないからね」
「そうだろうな」
「君と出会ったのは大学2年のときだったね。周囲に決して流れることなく、我が道を行く君のスタイルに最初は戸惑ったけれど、いつの間にかこうして腐れ縁に……」
「……」
「……それにしても、随分と君には似つかわしくない店を選んだものだ」
そう言って彼はカラフルに彩られたメルヘンチックな内装を一瞥する。二島のことだ。店内に入ってから、いや店内に足を踏み入れる前からソワソワする私の様子には気付いていただろう。
ふぅーっ、と一息ついて、三島は再び口を開いた。
「硬派な君が、まさかとは思ったのだけれど。それで、一体どの子?」
「……」
「その為に僕をこんな店に呼んだんだろう?」
「……ナターシャだ。にわかには信じられないだろうが私はナターシャに出逢ってしまった。それが昨日の話だ。そして、この店で働いていると直接聞いた。だけど今日は休みのようだ」
「ナターシャ?なるほど、君が唯一認めた女性、ナターシャ・ロストフだね。そういえば学生の頃、トルストイについて一晩中君と語ったこともあったっけ。その彼女がこのメイドカフェに」
二島は立ち上がると、店の奥へと消えていってしまった。
「お、おいっ、二島!」
二島は一見すると物静かな男だが、ここぞという場面での積極性は私とは比較にならない。いや、だからこそ私は彼に期待を寄せ此処に呼び出したのかもしれないのだが。
5分ほど経過した後、二島はナターシャを連れて戻ってきた。
「千木、彼女だね?ひと目見たらわかったよ。確かにルックスについてはナターシャのイメージ通りだ」
ナターシャこと花坊美咲さんは、私の姿を確認すると目を見開き、とても驚いたという表情をしてみせた。
「ほにぃ……あなたは昨日のっ。本当に来て下さったんですか。ありがとうございますぅ。それで、ナターシャって一体誰のことですか……?」
やはり美しい。昨日の私服もよく似合っていたが、これはメイド風とでも言うのだろうか……、大人びた彼女の顔立ちとはアンバランスなその衣装が、彼女の魅力を引き立てている。
金魚のように口をパクパクさせるだけの私を見かねて、二島は答える。
「彼は千木で、私は二島と申します。友人の彼にとても美味しいコーヒーを出す店があると聞いて、今日はこちらに伺いました。しかし彼の真の目的はコーヒー以外にあるようで……。僕はこれから仕事に戻りますので、良かったら5分ほど彼に付き合ってやっては頂けませんか?」
「はい。もうすぐ休憩に入るので、それからでも良ければ」
私は思わず二島の腕を掴む。
「まっ、待ってくれ二島。君も残るべきだ。ほっ、ほら、コーヒーのお代わりを貰おうじゃないか。喉が乾いて仕方がないだろう。花坊さん、コーヒーを2杯、いやいや、花坊さんの分も含めて3杯注文をお願いして宜しいですか。ああっ、支払いは大丈夫。小生に任せるでござるよ」
パニクる私に呆気に取られたのか、花坊さんはクスクスっと笑う。
「ほにぃ……言ったでしょ?昨日助けて頂いたのでサービスさせて下さい。それから私、コーヒーよりカフェオレ派なんですよ」
いたずらっ子のような微笑みを浮かべそう口にしたあと、花坊さんは店の厨房へと戻っていった。
二島は私に向かって目配せをする。上手く行ったなという意味だろうか。やれやれ……生きた心地がしない。
その後、すぐに戻ってきた花坊さんと私たちは、改めて自己紹介を交わし合った。
花坊さんは現在大学3年生で、空き時間や講義の無い日にこのカフェで働いているらしい。
「へぇ、千木が電車の中でそんな行動を。学者肌の彼にそんな勇敢な一面があるとはね、僕も知りませんでした」
「あのときはどうしていいかわからなくて。千木さんの気配りに救われたんです」
「花坊さん、今日はゆっくりお話する間も無いでしょうから、また千木と会ってやってはくれませんか」
そう、気配りが出来るのは三島の方である。この男が女性から絶大な人気を誇る理由を、私は理解した。
「ええ。是非」
なんたることか花坊さんの答えはYESだった。私にもいよいよ春到来だろうか。
「今週末、良かったら飲みに行きませんか?」
花坊さんが誘いの言葉を発している。この私に向かって。迅速に何か答えなければ……。
「に、二島の都合が良ければ……」
思わず口をついて出た言葉がそれだった。
苦笑する二島と花坊さん。成り行きで二島と私、そして花坊さんと花坊さんの友人である腐蘭姐さんという方の4人で飲みに行く運びとなったのである。
(続く)
■連載中
チェレヴィチキ主役のラブロマンス『恋い焦がれるマトリョーシカ』
ヘンリク主役の官能小説『蜜壺症候群』
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-12224424
仮面舞踏会×泥レス『雄猫たち』
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-20222507
■連載予告(年内予定順)
メディシンマン主役のインテリヤクザ物語『極道ってやつに足を突っ込んでみた』
KAGEURA主役のサイコスリラー『復讐するはワイにあり』
セカタビ主役の世界紀行ドキュメンタリー『拝啓、親父へ』
ヘンリク主役の戦隊ヒーロー『サイクリング戦隊ヘンリクレンジャー』
■連載終了
糸魚川主役のミステリー『迷探偵イット』
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-18233919
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-19213355
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-20214939
http://www.fuoriclasse2.com/cgi-bin/read.cgi?2017-05-21224400
仮面舞踏会×フットボール『ガゼッタ・デロ・オネェ』
※辰巳ノベルズはフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
[ 2017年08月25日 - 22:00 ]
(08/25 - 22:29) 火薬田のせいだなw
メディシンマン (08/25 - 22:26) あ、変えてたことに気付いてなかった…三島になったり二島になったりしてますね(笑)
(08/25 - 22:20) とうとう自分は二島になってしまった。一瞬だけ三島に戻ってたけど。
メディシンマン (08/25 - 22:13) ラブコメ漫画読んで胸キュン俺が一番読みたかった話だーー!